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「赤井くんには彼女がいない~ハッピーエンドの描き方~」 刊行直前ショートストーリーWEB連載(最終回)

「赤井くんには彼女がいない~ハッピーエンドの描き方~」 刊行直前ショートストーリーWEB連載(最終回)

 ※今回はメタ発言が含まれているのでご注意ください。

 

 2研の部室内。

 中央にスチール製の会議机。部屋の左右に本のつまった本棚、正面には漫画のポスターが貼られた窓ガラス。いつものように中央奥の席に銀河が座し、そこから時計回りにルナ、夕陽、ひなた、夜明、そして銀河に戻る、という順に座っている。

 銀河は、ばん! と机を叩いて立ち上がり、右の手をぐっと顔の前で握りしめて叫ぶ。

「ということで、本日は『第一回、ひなたくんのキャラがうすいのをどうにかしよう会議』を行う!」

「……」

「……」

「……」

 一同はしばし銀河を見つめて沈黙し、

 夕陽がおそるおそる挙手をしてから、

「あの、それって本編二巻用のストックネタじゃないですか?」

「そうですよ、私が2研の中で存在感がないのを気にして相談するっていう話は、けっこう二巻でメインになる予定の話だったと思うんですけれど」

 ひなたも続けて言うが、銀河はくいと眼鏡を押し上げながら首を左右に振って、

「いや、二巻が出るか出ないかは一巻の売れ行き次第だしな。ストックしておいて無駄になる可能性も高いわけだ」

「で、でも、もし読者の皆さまのおかげで、に、二巻が出せることになったらどうするの?」

 夜明の質問にも銀河は当然のように、

「そのときは新しくネタを考えればいいでしょう。どうしてもアレなら、しれっとこのページを削除して使いまわすという手がありますし」

「って、このショートストーリー、ぽにきゃんBOOKSさんのブログにも載るんですよ?」

 ルナも言うが、銀河はきっぱりと、

「ブログ担当さんに『あれやっぱり使いたいんで削除してください』って泣きつけば、まあなんとかなろう」

「……それはどうかと思いますけど」

 夕陽の言葉に、銀河は笑って、

「まあ細かいことは気にするな。著者がまた考えればいいだけの話だ。俺たちが気に病む必要はない」

 言い切って、それでこの話題は終わりだとばかりに一同を見回す。

「それでは、案を思いついた者から言ってもらおうか」

「……」

 しばしの間。

 誰もが他の全員の顔色をうかがうように、沈黙が室内に満ちて――

「――えっと、それじゃあ、僭越ながら私から」

 ルナがそう言って、フリップを机の上に出した。

 書かれている文字は、

 

【男になる】

 

 一同の視線を集め、ルナは勢いよくしゃべり始める。

「つまりですね、この部に何が足りないかっていえば、男っケですよ。だいたいが担当さんに提出した企画の段階では男子部員ばっかりだった『赤井くん』のはずなのに、なんかできあがってみれば女子ばっかりになっちゃって、ホモホモしさが全然ないんです。せめてひなたちゃんが男になって夕陽くんと事あるごとにいちゃいちゃすれば、問題は軽減されます! 私も嬉しい!」

「……」

「……えっと、」

 ひなたが遠慮気味に挙手、

「夕陽くんといちゃいちゃするのは、その、まあ、なんていうか、キャラを立てるために必要っていうなら喜んで――あ、別に喜んでって言っても嬉しいわけじゃなくて、その、」

 こほん、と一度咳払いをして仕切り直し、

「と、とりあえず、どうやって私が男になればいいんですか。話はそこからです」

「そりゃまあ、実は男だったパターンだろうなあ」

 銀河は当然のように言う。

「いわゆる男の娘ってやつだ――と言ってもひなたくんは知らんか。なんというか、見た目は普通に女の子にしか見えないのに、実は『生えてる』という、一部で人気のジャンルだな」

「でも、ひなたちゃんと私たち、本日2月3日にぽにきゃんBOOKSさんから発売になる『赤井くんには彼女がいない~ハッピーエンドの描き方~』の七章で、一緒にお風呂に入ってますけれど。本日! 2月3日に! 発売になる! 『赤井くんには彼女がいない』で、一緒にお風呂に入ってますけれど!」

 ルナは額の汗を腕で拭う仕草をして、

「ふう、実に自然にCMを入れられました」

「いや……二回言ったし、めちゃくちゃ感嘆符ついてたし、あんまり自然じゃなかったが」

 銀河はこめかみに汗、

「まあともあれ、それくらいならば『実はあのときは男だってバレそうな超ピンチだったのだけれど、挟んで隠してました』とかで乗りきれるんじゃなかろうか」

「で、でも、く、口絵見開きカラーで、ひ、ひなたはわりと、か、身体が出てるから……」

 夜明が言って、一同はなんとなく中空を見つめる。

 たしかに、ひなたは浴槽の縁に腰をかけていたはずなので――

 銀河はがりがりと頭をかき、

「……それは後で確認だな。まあ、この案は保留ということでいいだろう」

「ほ、保留なんですかっ!? 普通に却下じゃなくてっ!?」

 ひなたが悲鳴に近い声をあげるが、銀河はスルー、

「では、次の案だが、俺のものが近いので」

 と言って、フリップにフェルトペンをきゅきゅきゅと走らせ、皆に見せる。

 書かれた文字は、

 

【いっそ女子を好きになって百合路線で】

 

 銀河は得意満面、中指で眼鏡をくいと押し上げて、

「この部に足りないモノ! それはゆりゆりしさだ!」

 再び、ばん! と机を叩いて立ち上がり、

「何しろこれだけ女子メンバーがいるのだ! むしろ百合っぽさがないほうが不自然だとすら言えるのではなかろうか! なんか部活もので男子が一名だけいるとハーレムな感じになりがちだが、ここで複雑な矢印が飛び交う人間関係を構築することで新たなエンターテインメントとしての可能性を模索するのはどうだろう!」

 静まり返った一同の前で、銀河は、ぶん、と右手を水平に振りぬいて、それをぐっと握りしめる。

「それに何より、著者が最近になって百合豚になったのは何よりの変化である!」

「え」

「……あの人、ずいぶん前から百合もの書いてませんでした?」

 夕陽が言うと、銀河はうなずき、

「お前の疑問ももっともだ。が、アレはなんか色々な事情があって云々、当時は特に百合というジャンルに思い入れはなかったらしい。それが2014年に色々あって、本作『赤井くんには彼女がいない』の執筆を始めて以降に自分が百合好きだということに気づき、主人公を男にしてしまったことを後悔し、百合が書きたい百合が書きたいと苦悶の日々を送っているのだそうだ」

「……ああ、なんとなく、今回の一連のショートストーリーを読んでいて、そういうにおいというか、感じてはいたんですが」

 呆れたように夕陽が言い、銀河はまたもうなずき、

「最近の著者はdア◯メス◯アで百合の匂いのするアニメをチェックし、しばらく前の更新で【仲良し女の子】という明らかにソレなタグができたことに歓喜していたが、タグが付けられている作品がまだまだ少ないことなどから――」

「もういいもういいですっ!」

 ルナはばたばたと手を振って銀河の長口上を止め、

「そ、それじゃあ、次の人行きましょう、次っ! 当のひなたちゃんはどう?」

「え、私も意見を出すんですか? じゃ、じゃあ、えっと、」

 ひなたは慌ててフェルトペンを手に、うーん、と考えながらフリップに文字を記し、

 とん、と机の上に立てる。文面は、

 

【メインヒロインになる】

 

 ひなたはこほんと咳払い、

「現状、メインヒロインってルナ先輩じゃないですか?」

「えっ」

「え……」

「え?」

「そうなの?」

 当のルナまでもがきょとんとした顔をする。

「そうなんですっ!」

 ひなたはまずツッコんでから、腕を組んで人差し指を立て、

「まず、本日発売となる『赤井くんには彼女がいない』本編においての登場シーンを見てください。明らかにメインヒロインはルナ先輩ですよね」

「あー、たしかに……でも、ほら、登場シーンでいえば、イラスト担当のMITAONSYA先生が仰るところの『ラスボス』がいるわけだし、」

「それはそれです」

 ルナの言葉を、ひなたはばっさりと遮る。

「(発売当日公開なので検閲)は『ラスボス』であることが災いしてもいるんです。表紙にも口絵にも大っぴらには登場できなかったわけですから」

 でもって、とひなたは続ける。

「ルナ先輩がメインヒロインとして位置づけられているのは、その扱いでもわかるんです。このショートストーリーが載っている、ティザーサイトっぽいサイトを見てください。トップでタイトルを書いているのはルナ先輩、案内役としてメニューの横に立っているのもルナ先輩、ショートストーリー0の開始も、ショートストーリー1の視点主だってルナ先輩です」

「ふむ」

 と、銀河はうなずき、

「つまり、そういった部分に全てひなたくんが出るようになれば、自然と目立つ、というわけか」

「そうなんです!」

 我が意を得たりとばかりにひなたはうなずき、

「今からでも遅くはないです! MITAONSYA先生に頼んで、ティザーサイトのトップイラストとガイドイラストを描き下ろしてもらいましょう! そうすれば自然と存在感が!」

「ショ、ショートストーリーは、こ、これで最後なんだし、も、もう遅いと思うけど……」

 夜明がぽつりとツッコんで、場に沈黙が落ちる。

 しばしの間。

 銀河がこめかみをかりかりとかきながら、

「そういう夜明先輩はどういうアイデアがあるのですか?」

「……わ、私は」

 夜明のフリップには既に文字が記されていた。恥ずかしそうに、夜明はフリップを机に立てる。余白いっぱいのフリップの中央には小さな丸文字で、

 

【魔法少女になる】

 

 とある。

「え、えっと、か、陰ながら世界の平和を守る、ま、魔法少女になれば……」

「……リトルマジカルみたいな、ですか?」

 夕陽は見たことがなかったが、名前くらいは知っている。日曜の朝にやっているアニメだ。本来は女児向けであるはずだが「大きなお友達」の視聴者も多く、銀河、ルナ、夜明の三人も毎週月曜にはよく話題にしている。

「そ、そう……」

 夜明がうなずき、銀河はぽんと手をうつ。

「なるほど、リトルマジカル方式ならば、一巻の時点では『普通の女の子』だったひなたくんが、ある日突然魔法少女になることもできるわけですね」

「……そもそも、その『リトルマジカル』ってどういう話なんですか?」

 ひなたが問うと、銀河と夜明が目を見合わせた。

 どちらが説明するか、というアイコンタクトが行われ、結果として銀河が立ち上がった。横にある本棚へと歩んでいくと、大判の本を一冊抜き出す。ツインテールの女の子が魔法少女っぽい服装でハートのステッキを手にした表紙に『魔法少女リトルマジカル公式ガイドブック』とある。

 銀河はその裏表紙、同じツインテールの女の子が制服を身にまとい、通学鞄を手にしているイラストを一同に見えるように示して、

「『魔法少女リトルマジカル』は、小学五年生の女の子、二条城莉麻(にじょうじょう・りま)が主人公のアニメだ。莉麻はそもそも、同じクラスの高橋たかしくんに恋する普通の少女であった。が、あるとき行き倒れていた天使のクピピを助けたことによって、天使使(てんしし)となる」

「てんしし?」

 ひなたが問う。銀河はうなずいてガイドブックを裏返し、表紙の魔法少女を指さして、

「クピピの説明によれば、天の使いが天使であり、その天使の使いなので天使使となるそうだ。まあ要するに、天界の下っ端ということになるな」

 続けて銀河は、いつものように眼鏡を中指で押し上げ、

「リトルマジカル世界では、世の中の幸福量というやつによって天界と魔界のパワーバランスが変化する。幸福な人間が増えれば増えるほど天界がパワーを増し、魔界はパワーを失う。その逆も然りだ。でもって、人の幸福というのも諸々あるが、クピピはその中で人間関係担当なのだ。天界側であるクピピは恋愛を成就させようとし、魔界側であるライバルのカルロスは破局させようとする。簡単にいえばそれだけの物語なのだが、これが意外と深くてな。誰かの恋が実ることは誰かの恋の終わりであったりもして、複雑な人間模様が描かれているがゆえに『大きなお友達』にも人気なのだ」

「……ということは、私は恋愛を成就させようとする、恋のキューピッドをやるってことですか?」

 ひなたの質問に、銀河とルナと夜明がうなずく。

「……」

 ひなたは、横目でちらりとだけ夕陽を見やってから、

「えっと、質問です。たとえば――あくまでも、たとえばですけど。天使使は、自分の恋愛感情が誰かの恋心とバッティングしたら、どっちを優先するんでしょう? 莉麻ちゃんでいえば、たかしくんを好きな誰か他の女の子が現れて、その恋を叶えなくちゃならなくなる、とか」

「いい質問だ、ひなたくん」

 銀河はガイドブックを本棚に戻しながら、

「リトルマジカルの――まあ『俺が見いだしたテーマ』は、自己犠牲だ。1期のクライマックスで、たかしを好きになったクラスメイトの恋を叶えるために、莉麻は自分の気持ちを捨てて行動することになる」

 それを聞いたとたん、ひなたは視線を落として、

「……私、リトルマジカルはいいです」

「……」

 銀河は何か言おうかと迷ったようだったが珍しく口を開かなかった。

 一瞬だけ間が空いて、銀河の代わりにルナが、

「えっと、じゃあ、あと夕陽くんだけど――」

 言われ、

 夕陽は、しばし迷ってから――

 フリップを、とん、と置いた。

 そこには、

 

 何も書かれていない。

 

 一同の疑問の目を前に、夕陽は少しだけ気まずそうに話し始める。

「いや、俺も考えたんです。完全なネタとしては、トライテールにするとかデュアルツインテールにするとか。少し真面目なのでは、オタク属性を何か一つ特化させるとか。そもそもの出だしでいえば、銀河先輩が漫画、俺がライトノベル、夜明先輩がゲームで、ルナ先輩が腐女子。そういうのがひなたさんにはないって話だったわけですから。でも、そういうのって、なんか違う気がしたんですよ」

 視線を一同から外し、

「別に、今まで皆さんが出してくださった意見を否定するわけじゃあないんですけれど。2研のメンバーはわりと個性が強いから、その中で引け目を感じちゃう気持ちもわかるんです。でも……うまく言えないですけど、そこに変な何かを付け足すんじゃなくて、ひなたさんは、ひなたさんのまま伸びていけばいいんじゃないかな、って。無理な味付けなんかしなくても、人って、それぞれ魅力的なものだと思いますから」

「……」

 銀河が、いつものように中指で眼鏡を押し上げた。

「――さて、これで全員の意見が一通り出揃ったな」

 そして、誰が何を言うよりも早く、ひなたを見やって、

「ひなたくん、無理にすぐ決める必要はなかろう。今日のところは皆の意見を持ち帰って、少し考えてみてはどうかな」

 ひなたはその言葉に、少しだけ間をおいて、

「……そうですね」

 と言って、小さく微笑む。

 銀河は立ち上がり、

「さて、五時だ! 今日も帰宅せねばならん時間になったぞ! 駅前の本屋に寄って、本日発売になった『赤井くんには彼女がいない』を買って帰ろうではないか!」

「……いや、いいですけど、あの本屋さん絶対人数分も入荷してないと思いますよ」

 夕陽の言葉に銀河はうなずき、

「書店さんに買いたい本がないときは、ネット書店を利用するのも手だが、まずは遠慮なく店員さんに尋ねるといい! それは全ての本の著者が望んでいるだろう! おすすめはスマートフォンに本の情報ページを表示しておいて『この本ありますか?』と聞く手だ! それならば敷居も低いだろうしな! さあ、行くぞ、皆!」

 銀河がかかかと笑いながら2研の部室をあとにする。

 ルナが、くるりと『こちら』を向いて、

「――ということで『赤井くんには彼女がいない。発売直前ショートストーリーズ』はこれでおしまいになります。できればまた、本編でお会いしましょうね」

 ぺこりとおじぎをする。

 それを聞いていたひなたと夜明が、

「え、あれ、これでショートストーリーって終わりなんですか? 全部? 私のお料理教室のネタは?」

「せ、性別転換……い、いわゆるTSネタもまだやってない……」

「今回のは基本、俺たちが出会う前の話ですからね……2研の一同でFatal Funeralの世界を冒険するっていうファンタジー編もできませんでしたし。――まあ、二巻が出せることになったら、その時にまたやればいいんじゃないですか? ということで」

 夕陽の合図に従って、

 

 一同が唱和する。

 

「みなさま、最後までお読みくださって、本当にありがとうございました!」

 

 

 

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